2010年8月27日金曜日

『スタッフの力で実るICFAの活動』

国内外において様々な形で児童の造形美術活動をおこなうICFAの活動は、熱心なスタッフの力によって支えられています。いろいろな人がそれぞれの力を活かしてスタッフとして活動に参加しており、その範囲は美術指導、制作補助、通訳・進行、ビデオ撮影、広報誌デザインなど多岐に渡ります。一生懸命制作に向かう子どもたちの為に、自分が出来る事を活かして活動に参加したいという意思でスタッフが集まり、現場で力を合わせていきます。そんなICFAの活動に関わるスタッフの力を現場のエピソードでご紹介していきます。
『壁画指導者』
壁画指導者は壁画制作全体を司る総指揮者のもと、壁画完成まで児童の下絵、壁面の絵の指導をおこないます。普段は造形・絵画教室の先生やアーティストとして制作活動を行っている壁画指導者は、美術や制作の知識や経験はもちろんのこと、子どもたちの想像力を引き出し、創造性を育て、成長を見守る姿勢を常に持っています。 
エピソード 『上手な絵を描くことが、重要ではないんだよ。』
長期間大勢の人が見る壁面に絵を描くという事は、子どもたちに「最高の絵を描きたい!」という強い気持ちを起こさせます。この気持ちは子どもたちの制作への粘り強さにも繋がりますが、時として「上手な絵」を描こうという思いだけに捕われてしまう事もあります。
壁画制作1日目は各自の下絵をもとに、ペンキで壁面に絵を描く作業を行いました。そして迎えた制作2日目の朝、小学校3年生の参加児童が少しためらった様子で指導者に1枚の絵を見せに来ました。児童が見せたのは、いまその児童が描いている虎の足の部分だけを中学生のお兄さんが描いたとすぐにわかる絵でした。「お兄さんが教えてくれたこの足を描きたいのですが、いいですか?」と指導者に聞きました。
紙と異なり、でこぼこした壁に下絵のアウトラインの良さを活かして、そして大きく絵を描くのはとても難しいことなのです。この児童は、制作1日目に下絵でその良さを褒められていたように虎の足を描けずにおり、自分は絵を上手に描けていないと思ったようでした。
指導者は児童にこう伝えました。
「その虎の足に直してしまったら、小学生3年生のあなたにしか描けないかわいらしい虎の顔も全部、足に合わせて変えないと絵が調和しないのよ。あなたの絵が素晴らしいと先生が思ったのは、心に感じたことを力強く表現していたからなのよ。下絵に描いた虎の足に近づけるようにがんばって!」
 指導者のこの言葉で、児童はじめ周りの大人も、上手な絵を描くことではなく、子どもの想像力と創造性を活かして心で描くことが大切だと気付かされたようでした。自分の描く絵に自信を持ったこの児童は、自分にしか描けない虎を見事に描きあげました。
 最新のICFA通信で掲載された総指揮を務めた西森禎子先生のメッセージに「創造の現場で、より一層の厳しさと愛情を持って、子どもたちを導いていく」とあります。子どもたち1人1人の描く絵には、その子どもの持つ発想から成立っています。このように自分の絵と長い時間向き合い、心を込めて制作して、やっと自分らしい作品になるのです。子どもたちの制作を活かすのは、子どもたちの想像力を引き出し、創造性を育て、子どもに寄り添った指導ができる指導スタッフの持つ力でした。


2010年8月16日月曜日

人の出会いで繋がる壁画交流

朝から元気に外で遊ぶ子ども達の姿や、やけに空いている通勤電車を見ると、街中がすっかり夏休みだなと思います。
皆さんは今年の夏はもう旅に行きましたか?
それとも、もうすこし涼しくなるのを待って、今は旅の計画中ですか?


旅の計画はワクワクするものですね。
どこに行って、何を観て、どんな発見があるのかな、など考えると楽しみは広がります。
皆さんは旅の計画を立てるのにまず何から始めるのでしょうか?



ICFAが行う世界各地の子ども達と日本の子ども達の共同作業による「国際児童壁画交流」の活動計画は、人との出会いから始まります。

まずはスタッフの「海外に壁画交流に行くぞ!」という想いから、交流の候補地のリサーチを始めます。世界各国たくさんの国がありますが、その中から日本から小学生中学年〜中学生まで十数名の子ども達を連れて行っても大丈夫な治安の良いところ、そして子ども達の創造力がかき立てられるような自然や文化が豊かであるところが候補地選びではポイントになってきます。

そしてまた重要なのが、まだ多くの事柄が決まっていない企画段階から、「2013年ニュージーランドでの壁画交流を目標にしています!」と人に私達の想いを伝えることだと思います。多くの方に現地の情報を頂き、それがきっかけとなり、出会いに繋がり、交流が実現します。

最終的に壁画交流を行うまでの準備期間として、両国の子ども達の絵画作品の交換や展覧会などを行います。この長い計画期間も大切にして、一歩一歩壁画交流の実現に向けて進んで行くこととなるのです。

現在ICFAでは少しずつですが、2013年の春にニュージーランドでの壁画交流実現に向けて動きはじめています。ひとりの力ではなかなか実現がむずかしいと思えることでも、多くの方と出会い、そういった方々の力を借りることによって、子ども達に海外で心の交流を通した創造活動という、かけがえのない体験のチャンスをつくってあげることができるのです。

今までのICFA活動を振りかえる記事と合わせて、活動進捗報告やイベントのお知らせを掲載していきます。どうぞ、お楽しみに!


2010年8月10日火曜日

『壁画で繋ぐ世界-児童文化交流 2』〜日墨文化交流児童合作壁画(2007.3)



なによりも、毎日の制作を通して深くなる子どもたちの友情、そして滞在を通してお世話になるホームステイの家族との交流が、子ども達の描く壁画をより一層力強いものとします。言葉や文化の違いを乗り越え、自分の気持ちを伝え、分かり合えた時の喜びを子ども達は強く感じ、その絆が協力して1つの壁画の世界を創り上げるという心を育てます。

ラパスはクジラが毎年出産に訪れることで有名な場所で、市内観光でクジラの骨の野外展示を見学しました。大きなクジラの骨を自分の目で見て感激した日本の子どもは、メキシコの子どもと力を合わせて、クジラの骨をダイナミックに描きました。
また、大人がビックリするくらいの早さで、子どもたちは互いの言葉を覚え、覚えたてのスペイン語、日本語が飛び交い、制作現場を和ませました。
「ブエノスディアス!」「アミーゴー!」「オハヨウ!」「アリガト!」

初めてのホームステイで最初は不安で緊張気味の子ども達も、実際に現地の家族と過ごしてみると、言葉が少ししか通じなくても、手振りや笑顔と心ですぐに仲良くなれたことに大きな喜びを感じます。毎朝制作前は、ホームステイの家族とどこに行った、どんな夕飯を食べたかという話題で持ちきりです。
メキシコの家族の皆さんも、初めて受け入れる日本からの子どもにとても親切にしてくださり、メキシコの子どもより小食な日本の子を心配して「どんな食事が食べたい?」「夜は良く眠れているか?」「うちの子ども達は、はしゃぎ過ぎて迷惑をかけていないか?」などなど、驚くほど気を使ってくれました。日本の子どももそんなホームステイの家族の気持ちを感じて、段々と緊張が解けて、制作にも力が込められました。





完成間際には、この壁画に両国の子ども達の親善と友好を表す、「いつまでも友だち SIEMPRE AMICOS」と両国の言葉で力強く描かれました。壁面が描かれた国立人類学歴史学研究所南バッハ・カルフォリニア州博物館のアレハンドロ博物館館長も「(壁画は)連帯感と友情を確かに伝えることができました。」と会報に掲載したお便りに述べられました。

制作総指揮を務めた西森禎子先生により生命の源初、生命の大切さを表現した「命の誕生」が描かれ両国の子どもの合作壁画と共に飾られました。そして、子ども達の壁画が“生命の糸”に包まれて「大地」「海」「命の誕生」の感性がひとつになった大壁画が誕生しました。






壁画完成式典には、参加児童、制作スタッフ、そしてホームステイの家族や親戚の方も大勢集まり、お互いの国の踊りを披露したり一緒に踊ったりと、賑やかに壁画の完成を祝いました。



下絵制作で描かれた1人1人の子ども達の絵が、壁画の一部としてしっかりと融合して、1つの壁画の世界を創りだしました。こうして、現地で両国の子どもが下絵から一緒に制作をして、ひとつの壁画が完成するからこそ、お互いの文化を知り、友情を大切にする交流に結びつくのでした。








2010年8月2日月曜日

『壁画で繋ぐ世界-児童文化交流1』〜日墨文化交流児童合作壁画(2007.3)





ICFAは世界各地の子どもたちと日本の子どもたちの共同作業による「児童壁画交流」の活動を行っています。

児童合作壁画とは言いますが、海外の滞在期間は10日前後と限られており、異国の地で壁画を完成させるのは至難の業です。
そこでよく、「海外で壁画を描く為には、日本で壁画の元となる下絵を準備していくのでしょ?」尋ねられます。

「いえいえ、現地に行ってから両国の子どもが下絵を一緒に描き、壁画を完成させます!」

ICFA壁画交流20周年記念プロジェクトとして2007年にメキシコ・ラパスで行われた「日墨文化交流児童合作壁画」制作も、両国の子どものコラボレーションで完成した壁画です。


実際の壁面に描く絵ももちろん大切なのですが、それ以上に壁画制作の最も重要な作業となるのは、たくさんの要素から子どもたちの創造性を引き出し、一つの世界を作り上げる下絵制作です。


まず、子どもたちには両国のことを良く知ってもらう為に、両国の神話や伝説を紹介します。初めて触れる互いの国のお話から子どもたちは想像力を膨らませ、南バッハ・カルフォルニアの原住民の神様「ニパラハ伝説」が壁画に描かれました。また、日本の桃太郎の昔話から発想を得て、桃太郎がメキシコの神話の神様と一緒に砂漠の中を元気良く歩く姿が描かれました。この様に、子どもたちの想像力はどんどん広がり、壁画の要素を作っていきます。


また、その土地の自然を体験することも、子どもたちの創造力を刺激します。
エメラルドの海に囲まれ、砂漠の大地が広がるラパス。子どもたちは市内観光で観たラパスのエメラルド色の海に創造的刺激を受け、マンタやクジラが泳ぐ愉快な「海」の世界を描きました。海の世界では、浦島太郎や両国の国旗を持ったタコが仲良く遊んでいます。このタコは市内観光で訪れた市場で見た、紫色のタコから閃いたのでしょう。このように現地を訪れてから下絵を描くことによって、見るものすべてが新鮮に映り、現地を訪れた子どもにしか描けない独特の世界観が生まれます。







カストレーニャ遺跡の古代壁画見学では、険しい岩山砂漠を歩いて、苦労して見た古代の壁画がとても心に残ったという子どもの感想もありました。その道中、サボテンの刺に刺されないように歩いた体験(日本では滅多に体験できません!)から、壁画に描いた子どもたちのサボテンのトゲトゲにも力が込められています!



そして、現地の神話や体験だけでなく、一緒に制作する仲間からもどんどん創造の力が広まっていくのでした(つづく)