国内外において様々な形で児童の造形美術活動をおこなうICFAの活動は、熱心なスタッフの力によって支えられています。いろいろな人がそれぞれの力を活かしてスタッフとして活動に参加しており、その範囲は美術指導、制作補助、通訳・進行、ビデオ撮影、広報誌デザインなど多岐に渡ります。一生懸命制作に向かう子どもたちの為に、自分が出来る事を活かして活動に参加したいという意思でスタッフが集まり、現場で力を合わせていきます。そんなICFAの活動に関わるスタッフの力を現場のエピソードでご紹介していきます。
『壁画指導者』
壁画指導者は壁画制作全体を司る総指揮者のもと、壁画完成まで児童の下絵、壁面の絵の指導をおこないます。普段は造形・絵画教室の先生やアーティストとして制作活動を行っている壁画指導者は、美術や制作の知識や経験はもちろんのこと、子どもたちの想像力を引き出し、創造性を育て、成長を見守る姿勢を常に持っています。
エピソード 『上手な絵を描くことが、重要ではないんだよ。』
長期間大勢の人が見る壁面に絵を描くという事は、子どもたちに「最高の絵を描きたい!」という強い気持ちを起こさせます。この気持ちは子どもたちの制作への粘り強さにも繋がりますが、時として「上手な絵」を描こうという思いだけに捕われてしまう事もあります。
壁画制作1日目は各自の下絵をもとに、ペンキで壁面に絵を描く作業を行いました。そして迎えた制作2日目の朝、小学校3年生の参加児童が少しためらった様子で指導者に1枚の絵を見せに来ました。児童が見せたのは、いまその児童が描いている虎の足の部分だけを中学生のお兄さんが描いたとすぐにわかる絵でした。「お兄さんが教えてくれたこの足を描きたいのですが、いいですか?」と指導者に聞きました。
紙と異なり、でこぼこした壁に下絵のアウトラインの良さを活かして、そして大きく絵を描くのはとても難しいことなのです。この児童は、制作1日目に下絵でその良さを褒められていたように虎の足を描けずにおり、自分は絵を上手に描けていないと思ったようでした。
指導者は児童にこう伝えました。
「その虎の足に直してしまったら、小学生3年生のあなたにしか描けないかわいらしい虎の顔も全部、足に合わせて変えないと絵が調和しないのよ。あなたの絵が素晴らしいと先生が思ったのは、心に感じたことを力強く表現していたからなのよ。下絵に描いた虎の足に近づけるようにがんばって!」
指導者のこの言葉で、児童はじめ周りの大人も、上手な絵を描くことではなく、子どもの想像力と創造性を活かして心で描くことが大切だと気付かされたようでした。自分の描く絵に自信を持ったこの児童は、自分にしか描けない虎を見事に描きあげました。
最新のICFA通信で掲載された総指揮を務めた西森禎子先生のメッセージに「創造の現場で、より一層の厳しさと愛情を持って、子どもたちを導いていく」とあります。子どもたち1人1人の描く絵には、その子どもの持つ発想から成立っています。このように自分の絵と長い時間向き合い、心を込めて制作して、やっと自分らしい作品になるのです。子どもたちの制作を活かすのは、子どもたちの想像力を引き出し、創造性を育て、子どもに寄り添った指導ができる指導スタッフの持つ力でした。